歯科医師国家試験の合格率として報道されるのは「受験者のうち何%が受かったか」という数字です。しかし大学によっては、出願した学生の3〜4割が受験に至っていません。国試前の卒業判定で受験者が絞り込まれる、いわゆる「卒留(そつりゅう)」の影響です。本記事では、厚生労働省の第110回〜第119回(2017〜2026年)の学校別データ10年分と、文部科学省が公表する「入学者ベースのストレート合格率」を使って、この影響を補正した全29歯科大学・歯学部の実態ベースのランキングを作りました。
一般に報道される合格率は「受験者」が分母です。そのため、国試合格が難しいと判断された学生が卒業判定で留年し、受験者に含まれない場合、大学の教育力の指標としては実態より高く見えることになります。この分母の絞り込みの度合いは大学によって大きく異なるため、単純な合格率の比較では条件が揃いません。
そこで本記事では2段階の補正を掛けました。
① 出願者ベース合格率 … 合格者数÷出願者数。願書を出したのに卒業判定などで受験できなかった人を分母に戻します。厚労省の公表データには出願者数も載っており、後述のとおり大学によっては出願者の約4割が受験に至っていません。
② ストレート合格率(入学者ベース) … 文科省が毎年公表している「入学者のうち、6年で卒業し、直後の国試に一発合格した人の割合」。進級留年・卒業留年・退学の影響がすべて反映される、各大学の判定運用に左右されない最も実態に近い数字です。本ランキングの順位はこれ(入学2011〜2019年度の9年平均)で付けています。
図:受験者ベースの新卒合格率(橙)と入学者ベースのストレート合格率(青)。線が長い大学ほど両者の差が大きい(順位はストレート合格率順)
| 順位 | 大学 | 区分 | 新卒合格率% (素・10年) |
総数合格率% (既卒込み) |
出願者ベース% (補正①) |
出願→受験 未受験率% |
ストレート% (補正②) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 岡山大学 | 国立 | 87.7 | 81.1 | 86.9 | 1.0 | 79.4 |
| 2 | 新潟大学 | 国立 | 84.8 | 79.3 | 84.6 | 0.2 | 76.9 |
| 3 | 九州歯科大学 | 公立 | 85.4 | 77.3 | 85.4 | 0.0 | 76.0 |
| 4 | 鹿児島大学 | 国立 | 84.2 | 75.0 | 84.0 | 0.2 | 75.6 |
| 5 | 北海道大学 | 国立 | 90.4 | 83.0 | 89.0 | 1.5 | 74.4 |
| 6 | 東京歯科大学 | 私立 | 96.1 | 94.5 | 84.4 | 12.1 | 71.5 |
| 7 | 東京医科歯科大(現・東京科学大) | 国立 | 88.3 | 84.8 | 88.0 | 0.4 | 70.3 |
| 8 | 東北大学 | 国立 | 83.8 | 72.9 | 81.9 | 2.2 | 69.0 |
| 9 | 長崎大学 | 国立 | 82.1 | 73.4 | 80.4 | 2.1 | 68.9 |
| 10 | 大阪大学 | 国立 | 85.9 | 82.0 | 85.6 | 0.4 | 67.6 |
| 11 | 広島大学 | 国立 | 82.8 | 76.3 | 82.5 | 0.4 | 67.5 |
| 12 | 昭和大学(現・昭和医科大) | 私立 | 88.8 | 83.7 | 82.6 | 7.0 | 67.4 |
| 13 | 徳島大学 | 国立 | 75.1 | 67.0 | 74.0 | 1.5 | 65.0 |
| 14 | 九州大学 | 国立 | 83.9 | 70.9 | 83.2 | 0.8 | 64.8 |
| 15 | 日本歯科大学(生命歯学部) | 私立 | 77.0 | 68.9 | 61.1 | 20.7 | 49.5 |
| 16 | 大阪歯科大学 | 私立 | 86.3 | 66.3 | 63.4 | 26.5 | 48.0 |
| 17 | 北海道医療大学 | 私立 | 80.7 | 61.9 | 60.8 | 24.6 | 46.9 |
| 18 | 日本大学歯学部 | 私立 | 65.3 | 56.5 | 58.3 | 10.7 | 46.1 |
| 19 | 愛知学院大学 | 私立 | 72.6 | 62.9 | 69.1 | 4.8 | 45.9 |
| 20 | 朝日大学 | 私立 | 78.4 | 53.8 | 53.5 | 31.8 | 43.3 |
| 21 | 奥羽大学 | 私立 | 57.7 | 36.0 | 38.9 | 32.6 | 41.8 |
| 22 | 明海大学 | 私立 | 80.7 | 59.8 | 52.4 | 35.1 | 41.4 |
| 23 | 日本大学松戸歯学部 | 私立 | 67.8 | 54.1 | 47.7 | 29.6 | 40.6 |
| 24 | 岩手医科大学 | 私立 | 68.9 | 54.8 | 49.5 | 28.2 | 39.0 |
| 25 | 福岡歯科大学 | 私立 | 54.3 | 40.8 | 42.1 | 22.4 | 38.5 |
| 26 | 松本歯科大学 | 私立 | 89.4 | 62.5 | 53.3 | 40.4 | 38.1 |
| 27 | 神奈川歯科大学 | 私立 | 77.8 | 70.8 | 50.0 | 35.8 | 34.6 |
| 28 | 日本歯科大学新潟生命歯学部 | 私立 | 84.4 | 74.6 | 73.2 | 13.3 | 34.6 |
| 29 | 鶴見大学 | 私立 | 60.9 | 47.3 | 35.9 | 41.0 | 28.2 |
新卒・総数・出願者ベースは第110〜119回(2017〜2026年)の10年加重平均。ストレート合格率は入学2011〜2019年度(第110〜118回対応)の9年平均で、2020年度入学分は文科省未公表のため含みません。「出願→受験 未受験率」=新卒出願者のうち受験に至らなかった人の割合(卒業判定による受験者絞り込みの目安)。
国公立は出願後の未受験率が0〜2%程度、つまりほぼ全員をそのまま受験させてこの数字です。1位の岡山大学(79.4%)、2位の新潟大学、3位の九州歯科大学(公立)は、入学者の4人に3人が6年+一発合格でストレートに歯科医師になっています。
毎年「合格率全国1位」と報じられる東京歯科大学(新卒合格率96.1%)は、出願者の12%が受験に至っておらず、ストレート合格率では71.5%・全体6位となります。それでも国公立に混じっての6位であり、私立2位の昭和大学(67.4%)を引き離す私立トップです。
松本歯科大学は新卒合格率89.4%(私立上位)に対し、ストレート合格率は38.1%で26位。出願者の40.4%が受験に至っておらず、受験者ベースの合格率と入学者ベースの実績の差が大きくなっています。神奈川歯科(未受験35.8%)、明海(35.1%)、朝日(31.8%)、鶴見(41.0%)も同様の傾向で、図では線が長めのグループにあたります。
ストレート合格率が最も低いのは鶴見大学の28.2%で、「6年で卒業して一発合格」に至るのは入学者の3割弱にとどまります。日本歯科大学新潟生命歯学部は国試直前の未受験率は低め(13.3%)ですが、低学年での留年が比較的多く、入学者ベースでは27位タイとなります。
ストレート合格率は「入学年度」で集計されるため、直近の教育改革の効果は反映が遅れます(例:近年成績が回復傾向の大学は実態より低く出ます)。また、卒業判定を厳格に行うことには、合格の見込みが立たない状態で受験させないという教育的配慮や、国試浪人の長期化を避ける目的もあり、留年には学生本人の事情も含まれます。本記事は各大学の運用の是非を論じるものではなく、公表データを異なる分母で見直したものです。私立は学納金や入試難易度も大きく異なるため、進学先選びではこのランキングと併せて偏差値・学費・立地も検討してください。
・厚生労働省「歯科医師国家試験 学校別合格者状況」第110回〜第119回(各回の報道発表PDF)
第110回 mhlw.go.jp/…/0000155600.pdf /
第111回 0000198238.pdf /
第112回 000488440.pdf /
第113回 000606931.pdf /
第114回 000812478.pdf /
第115回 000913473.pdf /
第116回 001073188.pdf /
第117回 001226799.pdf /
第118回 001446934.pdf /
第119回 001674238.pdf
・文部科学省「各大学歯学部の入学状況及び国家試験結果」(医学・歯学教育ページ、令和7年度版PDF。過去年版は国立国会図書館WARPアーカイブより取得)
・大学名は調査時点の通称で表記(東京医科歯科大→現・東京科学大、昭和大→現・昭和医科大)。