肝硬変と歯周病。
一見まったく別領域に見えるが、近年の研究は両者の間に驚くほど強い関連性があることを示している。
2024年、クロアチア・ザグレブ大学の研究グループは、肝硬変患者の92%に重度歯周炎を認めた
という衝撃的なデータを報告した。
これは単なる「口腔内が不潔」レベルの話ではない。
免疫、炎症、肝血流、腸内細菌、栄養など、多くの因子が歯周病と肝疾患を深く結びつけている。
歯科医師国家試験でも、ここ数年、
“全身疾患と歯周病の関連” が繰り返し問われている。
本記事では、受験対策と臨床の両視点から、この研究の本質をわかりやすくまとめる。
クロアチアの横断研究では、肝硬変患者50名と対照50名を比較し、50名中46名(92%)がステージIII〜IVの重度歯周炎と診断された。
なぜこんなにも多いのか?
肝硬変患者には以下のような歯周病を悪化させる条件が複数重なっている。
1. 免疫力低下
肝硬変では好中球機能不全や免疫抑制が生じ、
歯周病原菌に対して防御力が落ちる。
2. 血小板減少・凝固異常
肝臓は凝固因子を作る。
そのため肝硬変では
出血しやすい
歯肉が腫れやすい
ブラッシングを避けがち
という悪循環が生まれる。
3. 栄養障害(低タンパク血症)
歯周組織の治癒に重要なたんぱく質が不足し、炎症が長引く。
4. 口腔清掃力の低下
倦怠感や腹水による生活能力低下で、ブラッシングが十分に行えない。
5. 腸肝循環を介した炎症(oral–gut–liver axis)
歯周病原菌が腸管を経由して肝臓に到達し、炎症を悪化させると考えられている。
6.アナコレーシス
肝硬変と歯周病の関連を理解する上で、**アナコレーシス(anachoresis)**という概念は必ず押さえておきたい。
アナコレーシスとは、
血中に存在する微生物が、局所の炎症部位へ“選択的に集まっていく現象”
を指す。
歯科領域では特に、歯髄炎症部位、周囲炎症部位
などに、血中を流れていた細菌が集まる現象として知られる。
肝硬変では
・バクテリアルトランスロケーション
(腸管→門脈)
・歯周炎由来の菌血症の反復
・免疫機能低下
が重なる。
この結果、炎症を起こしている歯周組織に血中細菌が集まりやすくなる。
つまり、肝硬変患者の歯周病悪化には、
口腔局所の細菌だけでなく、全身から流れ込む細菌(アナコレーシス)も関与している可能性が高い。
この研究の大きなポイントは
PISA(Periodontal Inflamed Surface Area)が肝硬変と独立して関連していた
という点だ。
PISAは“歯周組織の炎症面積”そのものを数値化した指標で、
歯周病と全身炎症をつなぐ重要なパラメータとして注目されている。
アルコール摂取
PISA上昇(炎症量の大きさ)
つまり、
肝硬変の背景には“歯周炎症の大きさ”という口腔因子が関わっている可能性が示された。
● 出血傾向の把握
肝硬変患者では血小板数・PT-INRを必ず確認。
外科処置だけでなくSRPでも出血が長引く可能性がある。
● 炎症の徹底管理
PISA高値の患者は全身炎症負荷が大きい。
歯周基本治療で炎症を下げることが、
肝疾患の安定にも寄与する可能性がある。
● 肝性脳症への注意
感染は肝性脳症のトリガーになるため、急性炎症を放置しない。
肝硬変患者では極めて高頻度に歯周病を合併する
免疫低下・凝固異常・栄養障害・清掃不良など複数の要因が重なる
PISAは歯周炎の炎症負荷を表す指標で、全身状態とも関連する
歯周病は肝疾患の予後因子となる可能性がある
凝固異常のある患者の歯周治療では、止血管理が必須
このあたりは、国試の“全身疾患と口腔症状”でそのまま問われうる。
肝硬変は歯周病と深く結びついている。
クロアチア研究は、肝硬変患者の92%が重度歯周炎であること、そして歯周炎症面積(PISA)が肝硬変の予測因子として働きうることを示した。
歯科医療は口腔だけを診る時代ではない。
肝疾患患者における歯周炎の管理は、全身の炎症・肝機能・生活の質に影響を与える可能性がある。
受験対策でも臨床でも、
“歯周病と全身疾患の関係”を理解することが重要
ということが、この研究からよくわかる。
Rinčić G, Roguljić M, Rinčić N, Jukić LV, Gaćina P, Božić D, Badovinac A. Is Periodontal Inflammation Associated with Liver Cirrhosis? A Cross-Sectional Study. J Clin Med. 2025 Sep 19;14(18):6616. doi: 10.3390/jcm14186616. PMID: 41010819; PMCID: PMC12470640.