TeethON塾長です今回は歯科麻酔の問題の解説。そして、今後はどう問われるかを予想して記載します!!
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64. 86歳の男性。上顎全部床義歯の不適合を主訴として来院した。新義歯製作目的で印象採得中に印象材が咽頭に流れ込み、強い呼吸困難を訴えた。腹部突き上げ法で印象材の除去を試みたが不可能で、その後意識を消失した。このときの生体情報モニタ画面の写真(別冊No. 25)を別に示す。
まず行う処置はどれか。1つ選べ。
a 背部叩打法
b 電気的除細動
C フルマゼニルの投与
d 胸骨圧迫心マッサージ
e ラリンジアルマスクの挿入

厚生労働省より
モニター波形:
心拍5 bpm、SpO₂ 55%、血圧45/21 mmHg。
エピソードより、印象材誤嚥による窒息
→低酸素性心停止を第1に疑います!
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項目 →所見評価
HR 5 bpm   徐脈性無脈 or 心静止 心停止
SpO₂ 55%   重度低酸素血症 呼吸原性
血圧 45/21  循環虚脱 組織灌流不全
意識消失     脳虚血 致死的状態
➡ 窒息による心肺停止(CPA)と判断します。
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呼吸・脈拍なし → ただちに胸骨圧迫を開始。
圧迫部位:胸骨下半分
圧迫深さ:約5cm、100〜120回/分
救援・AED要請を同時に実施。
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選択肢 解説
背部叩打法 意識消失後は無効。CPRを優先。
除細動 心静止・PEAは除細動適応外。
フルマゼニル 薬剤性呼吸抑制ではない。
ラリンジアルマスク CPR中またはROSC後に挿入可。初手ではない。
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印象材誤嚥→ 上気道完全閉塞
→ 酸素摂取不能 → 急速なSpO₂低下 → 心筋虚血 → 心停止。
つまりこの症例は「窒息からの低酸素性心停止(Asphyxial cardiac arrest)」であり、
呼吸管理を含む**二次救命処置(ALS)**が次の段階として重要になります。
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BLS継続中にラリンジアルマスクまたは気管挿管で気道を確保。
酸素100%で人工呼吸(10回/分)。
可能なら吸引装置で印象材除去を試みる。
除去不能時は気管切開も検討。
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呼吸循環再開後に、
→ ファイバースコープ下で異物除去
→ 頭頸部CTで誤嚥部位確認
→ ENT(耳鼻咽喉科)や麻酔科連携が必須。
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心静止・PEA対応:
CPR継続
アドレナリン 1 mg 静注、3〜5分ごと反復
心電図を逐次確認(VF/VT出現時は除細動へ)
ROSC後はICU管理+低体温療法+誤嚥除去。
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出題の流れとして今後、想定される設問
初期対応(今回) 「まず行う処置」→胸骨圧迫 BLSの順序理解
次段階 「次に行う処置」→気道確保・人工呼吸 窒息由来かどうかを判断
原因除去 「印象材除去法」 除去困難例の処置選択(喉頭鏡・吸引・外科)
二次救命 「薬剤投与」 アドレナリン投与・除細動の適応判断
予防管理 「歯科臨床での再発防止策」 印象材量・体位・吸引体制の整備
☆特にこの症例では、“BLS→ALS→原因除去→再発防止”の流れを総合的に理解できているかが次の出題ポイントになります。
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印象材誤嚥は歯科治療中の医療事故として最も危険なものの一つ。高齢者・義歯症例では嚥下反射低下があり、容易に窒息に至ります。
予防策として:
印象材を適量にする
患者体位をやや前傾にする
印象採得中に吸引装置を準備
万一に備えてBLS教育・酸素・AED常備が必須。
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ポイント 内容
病態                窒息→低酸素性心停止
初期対応        胸骨圧迫心マッサージ
次の対応        気道確保・人工呼吸・異物除去
薬物                アドレナリン静注(PEA対応)
再発予防         印象操作時の体位・吸引体制整備
が大切です!!